【コラム】働き方改革〜残業代の還元
大企業の残業時間の上限が規制されるなか、減った残業代の分を社員に還元していない企業が2019年4~6月で5割に上ることが日本経済新聞の調査で分かった。多くの企業で残業を減らしながら生産性を高め、それに寄与した社員に報いるという循環に至っていない現実があるようだ。
残業時間を減らしながら社員に還元したと回答した企業の業績をみると、大半の企業で前年同期比で純利益が増えた。還元策を実施しながら業績を上げる好循環につなげている企業は一部にはある。基本給への上乗せ、各種手当の支給、賞与、自己啓発支援制度の拡充等で還元したり、還元していない企業の中では、生産性の向上を賃上げ交渉などの材料にする「間接的な還元」で実施する企業もあるようだ。
働き方改革は、何のためにやらなければならないのか。労働生産性が先進7カ国中最下位で50年も続いている。時間あたりでみた日本人の賃金が過去二十一年間で8%強減り、先進国中で唯一マイナスとなっている。我が国の国内総生産の相対的低下が続いているため、賃金低迷の状況が消費をさらに冷え込ませる悪循環を招いている。こうした状況を打破するためではなかったのだろうか。
働き方改革は、誰のためのものなのだろう。ただ単に残業時間を減らすのでは、生産性は向上しないし、事業を縮小しているようなものだ。事業を縮小しようとしている企業が、5割もあるということなのか、生産性を向上させ、減った残業代を社員に還元しない企業が5割もあるということなのか。
いずれにしても、これはある意味罪ではないか。何のための働き改革なのか。今一度問い直してみたい。社員が効率的に働いて残業を減らしたのであれば、生産性が向上した分を還元することが内需の好循環を回すカギとなる。それが企業の収益の向上につながるのではないだろうか。